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プロローグ

「いつかきっと、その少年は貴方の過去を探り出しますよ」

 それは、多分遺言だった。
 目の前に座る少年は透き通った水色の瞳で彼を見つめている。
 警告、という調子ではない。予言、というほどわざとらしくもない。それがまるで確定した未来だとでもいうように、ただ淡々と――。
「僕は彼を恐れてなどいません」
 彼は毅然とした口調で答えた。
 少年はその彼の返答を聞き、僅かに表情を動かした。目が少し大きく見開かれ、顎をぐっと引く。だが驚いたというわけではないようだった。口角が滑らかなカーブを描いて上昇する。
「そう、確かに恐れるという言葉は値しないでしょうね」
「どういうことです?」
 彼は眉を顰める。
 若干十数年の人生で数々の大人たちを翻弄してきた目の前の少年――その手の平の上でもてあそばれるのは真っ平だが、実際この少年の思考には時々ついていけなくなる。直接話したのはたった二回。しかしそれは少年の非凡な才に触れるには十分な時間だった。
 少年はもったいぶる様子もなく、穏やかに告げた。
「貴方は確かに彼を――『七条(しちじょう)草摩(そうま)』を恐れはしないでしょう。何故なら」
 彼はその先に続く言葉を予想してかすかに身を硬くした。
「彼は貴方の過去を知っても、きっと貴方を許すでしょうから」
「…………」
 彼は喉元にせりあがってきた情動の塊をこらえる。無理やりに飲み込んだ唾液が痛い。
 できるだけ顔色には出さなかったつもりだが、やはり目の前の少年には分かったのだろう。少年は笑みを消し、彼を見つめた。
「僕は七条草摩という少年に会ったことはありません。けれど、彼の父親と間接的にではあっても接触した感触――そして僕自身が集めた情報」
 柔らかな声は耳に心地よく、それは彼に少年が曲がりなりにも宗教家だったということを思い出させる。
「それらから、彼の人物像を推測することは可能です」
「なるほど」
 彼はようやく余裕を取り戻し、普段どおりの笑みを浮かべた。少年が分かりきっていることを説明したのも、そのための猶予を彼に与えるためではなかったかとさえ思う。
「そう、いずれ――」
 少年はまるで独り言のような調子で続けた。
「貴方は選ばなければならない」
「…………」
 彼は沈黙した。
「貴方が貴方を許すか、どうか」
 少年は目を閉じる。その白い頬に細い銀の髪が乱れかかった」
「その命題はきっと七条草摩によってつきつけられることでしょう」

 警告ではない。
 予言でもない。
 だが、今の彼にはそれよりももっと――不吉な響きを伴って聞こえた。