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epilogue

 真っ白な部屋。
 護は既に三日間、眠り続けていた。規則正しい呼吸と鼓動を繰り返しながらも、彼は眼を覚まさない。目覚めるかどうかは護の体力に賭けるしかないと、医者はそう言った。
 彪は、護を信じている。いつだって、信じてきたのだから。
 死にたくない――そう言った彼の言葉を、彪は信じている。
 彪はベッドの傍の椅子に腰掛けていた。疲れた様子ではあるが、毅然とした表情を保っている。それはまだ彼が「天使王」と呼ばれていた頃を彷彿とさせた。
 退位の儀式は行われていないが、もう彼は王ではない。王でいることはできない。
 三日間、ずっと彪はこうして護の側にいる。王ではなくなったからこそできることだった。
 横たわる護は、安らかな顔をしている。瞼を縁取る長い睫毛も微動だにしない。
 ――護は、「しあわせ」そうに眠ってる……。
 彪の口元が、わずかに綻ぶ。
 ――病室の扉が開いた。
「彪さん」
 譲が姿を見せる。
「少し休まれては? 看病は私がかわりますから」
「ううん、大丈夫。時々、ここでうとうと眠っているからね」
 三日間、何度となく繰り返された会話だった。
 彪は護の寝顔に視線を落とし、目を細める。
「昔ね、いつも護は『約束』してくれたんだ」

 ――朝が来たら、僕が起こしてあげますから。

「だから、今度は……僕が起こしてあげなくちゃ」
 眼を涙で滲ませながら、それでもきらきらと輝かせて――。
「もうすぐ――朝が来る……」
 護が彪の元に戻ってきたのは、夜明け前だった。
「この国も、僕らが変えて――夜が明けた。朝を迎えたんだ」
 自分に言い聞かせるように呟く。
「だから、僕にも――護にも、朝はちゃんと……来る」
「…………」
 譲は、無言で頷いた。
 彪は厳かに、「約束」を口にした。
「朝が来たら、僕が起こしてあげる……」
 護は、静かに眠っている。その赤い瞳を、瞼の奥に隠して。

 ――朝が、来るまで。