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プロローグ

 銀糸の髪と赤い瞳をもつふたつの人影が相対し、言葉を交わしている。ひとりはまだミドルティーンの少年のようだが、もうひとりは二十代半ばほどに見えた。だが、実のところ彼らにとって見た目の年齢など何の意味も持たない。
「存在しているもので意味のないものはない」
 「彼」は言う。
「存在するということそのものが意味だ」
「…………」
「ただその意味を、人が概念としてとらえることができるかどうかは別の問題だけどね」
「……分かりません」
「そういうものだよ」
 首を横に振る彼に、「彼」は穏やかに微笑んだ。
「そもそも意味って何だろう? 存在しなくてはならないものかな? それならこんな風にしてまで人間が生き延びようとすることに意味はあるんだろうか?」
「…………」
 彼の逡巡を知ってか知らずか、「彼」は話を続けた。
「意味のないものに耐えられないのは、人間だ。コンピュータなどの人工物が、入力された仕事に対して意味を問うことはない。それは昔も今も同じ」
「しかし……」
「そう」
 「彼」は彼の問いに先回りして頷いた。
「君は意味を問うことができる人工物だ。擬似人格にもできない――勿論普通の『エーアイ』にもできないのにね」
「…………」
「意味を問うことができる存在は、この世に三つある」
 「彼」は左の指を三本立てた。
「一つには実存人格。つまり真の意味での人間だね。特に『アーク』の『コア』たちはある程度現実を知っている。彼らは与えられた任務に疑問を感じる」
「…………」
「そして、二つ目は君。それは今言った通りだ」
「三つ目は……」
 彼は真紅の瞳を「彼」に向けた。
「貴方ですね。『ノア』」
「…………」
「それともこう呼んだ方がいいですか」
 「彼」の微笑に向けて、彼は告げる。

「『時任輝也』」

「…………」
 「彼」の顔に動揺は現れなかった。彼の言葉など聞かなかったかのように言葉を紡ぐ。
「『ユダ』。君は、人間かな?」
「…………」
「僕は、人間かな?」