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プロローグ

「なあ、ミワ」
『どうしたの』
 彼の声に、いつもどおり即時に反応が返ってきた。彼と同年代、つまりミドルティーンの少女の声。
(そら)が綺麗だなあ」
『そんなことより、また勝手に起動して。怒られるわよ』
「いいじゃないか」
 彼はくすくす笑って手を掲げる。いや、実際には手は動かない。大脳皮質運動野は指令を出した。しかしそれを受容するはずの運動器はここにない。
 彼は穏やかな表情でつぶやいた。
「ここが好きなんだ」
『どうして』
「俺はきっと、ここで死ぬだろ?」
『そんな、縁起でもない!』
 はき捨てるような声にも、彼は静かに答える。
「そうか? でも、もうすぐ俺たちは最大の敵と遭遇する。そう言ってたよな?」
『ええ……』
「だったら俺は負けるかもしれない」
『そんなことになったら世界は終わりよ』
「世界、か……」
 ――世界なんて本当にあるのかな。
 彼はぼんやりとそんなことを考えた。本当は、全てが自分の妄想なのかもしれない。今ここにこうしていることも含め、どこか現実味に欠けている。それも、無理のないことのような気がした。まさか、自分が宇宙空間の中で得体のしれない敵と、世界の存続を賭けて戦っているなんて。きっと「彼女」が知ったらびっくりするだろうな……いや、そもそも信じてもらえないかもしれない。
『ワカコさんのことはどうするのよ』
 まるで彼の心を読んだかのような言葉に、彼の表情がかすかに歪んだ。
「それを持ち出すのは卑怯だぜ」
『そうかしら』
 世界の成り立ちになど、「彼女」は関係ない。「彼女」は「彼女」なのだから、それだけでいい。……そのことを、うまく口に出して言えない自分がもどかしい。
『……きたわ』
 不意にミワの口調が険しいものに変わった。
『エマージェンシーモードよ。すぐに出撃することになるわ』
「了解」
 彼の胸によぎった不安。その正体が何なのか、その時の彼にはまだ分からなかった。