instagram

プロローグ

 ――もう、駄目かもしれない。
 直接脳髄を揺さぶられているような衝撃に耐えながら、彼はそう思った。聴覚は複数のアラーム音で埋め尽くされ、視野も半分以上が欠損している。機体は破滅的なダメージを受けていたが、痛みがないのが救いだった。――機体の損傷が「コア」の痛覚に連動していなくて良かった。彼はぼんやりとそう思う。そうでなければ、きっと今頃自分は精神に異常を来たしてしまっていただろう。
「おい」
 音声シグナルは、奇跡的にまだ生きていた。他の機体との交信は不能でも、彼にはまだ呼びかけたい相手がいる。「エーアイ」。彼は「コア」に選ばれてから、ずっと側にいた存在。彼に「コア」としての全てを教え、そして肝心なことは何も教えてくれなかった。それでも、「それ」が彼の戦友であることにかわりはない。
「もし、おれたちが負けたら――どうなるんだ?」
『負けはしないさ』
「……?!」
 聞き覚えのない声だった。彼の「エーアイ」の、それではない。
『ああ、ごめん。きみの「エーアイ」は既に壊れてしまったので、代わりにぼくが答えたんだ』
 「エーアイ」が壊れた。その言葉に戦慄する。もうすぐ、おれも壊れてしまう……!
 その声に悲愴感はまるでなく、彼の運命になど全く興味がないようだった。
『心配は要らない。この舟には、まだ切り札が残されている――だから、まだ、「ノア」は終わりはしないよ』
 ――だが、おれは、終わるのだ。彼は思った。ある日突然、彼の目の前に現れた「エーアイ」。「ノア」を守れ、と。「コア」として「アーク」に乗り、敵と戦えと。何が何だかわからないままに、彼はここまでやってきて――そして――。
『さようなら、リニア・レイ』
 瞬間。ひとつの「夢」が、終わった。